ワークロイド研究会「建設ロボットについて」
ミュンヘン工科大学 トーマス・ボック教授
名誉会員であるミュンヘン工科大学トーマス・ボック教授は、世界的な建設ロボットの研究者です。主な研究は、ロボットの設計、ロボットのプレハブ工法、ロボットの稼働、ロボットのメンテナス更にロボットのリサイクルと言った、ロボットサイクルの全工程に関係しています。ボック教授が提唱する「Robot Oriented Design」では、ロボットが扱えるように建材の組み立て方を抽象化し、それに対応した建材を工場で製造し、それを現場のロボットが組み立てるプレハブ工法を応用した方法で人の作業では到達できない効率性を実現しました。これまでの建設ロボットの研究について、プレゼンして頂きました。
☑重機遠隔操作ロボット 株式会社富士建 https://fjk-co.jp/dokarobo
セミナー資料 ㈱富士建「DOKA ROBO」
セミナー概要
〇東京大学での研究
1984年東京大学 内田研究室に留学しが、留学当初、日本語が話せないので、自分が思い描くロボットの世界をデッサンして表現していた。そして、デッサンした世界は、その後、実現されていった。
☑トンネル・シールド・マシーン・ロボット(デッサン1984年⇒実現1989年)
東京湾横断道路トンネル・シールド・マシーンの自動化ロボットが開発された。工場で建設部材を製造し、現場でのマシーンで自動的に組み立てるプレハブ工法を採用した。
☑道路建設ロボット(デッサン1988年、実現2004年~2014年)
東京大学で博士号を取った研究論文で調査した日本のゼネコンのロボットは50種類であった。その後、これまでに全世界で開発された建設ロボットは、私の推計では500種類である。
〇フランス国立科学研究センター
東京大学で研究した後、1989年フランス国立科学研究センターで、建設ロボットの研究委員会を立ち上げた。ルーブル美術館のピラミッドの外壁調査ロボット、天井の塗装ロボット、建設現場の運搬ロボットを開発した。
〇ドイツ、カルスルーエ工科大学
フランスの後は、ドイツ最古の工業大学、カルスルーエ工科大学で、建物のレンガを早く組み立てるロボットを研究した。ロボット開発にあたっての問題の一つは、産業用ロボットを使った場合、重量負荷は300キロが限界であるが、レンガの組み立てには1トンの重要負荷に耐える必要があるだ。そのため、レンガ組み立て用のマニュピュレーターを新たに開発した。その他の問題としては、レンガの形状がそれぞれバラバラなので、レンガを掴むエンドエフェクターを随時調整する必要があることだった。そのため、エンドエフェクター自体をロボット化した。エンドエフェクターの開発には、非常に苦労した。
〇ドイツ、ミュンヘン工科大学
1997年からミュンヘン工科大学で研究するようになった。
日本の宮大工が使う道具や忍者屋敷にヒントを得て、高齢者の生活支援が可能となる家具自体がロボットになる研究をしている。
〇自然災害の危険な作業現場での遠隔操作ロボット
1991年雲仙岳火砕流、2004年新潟地震、2011年東日本大震災、2016年熊本地震で、遠隔操作による重機が活躍した。
ユニークな遠隔操作型ロボットとしては、佐賀県の富士建という土木工事の会社の角氏が、DOKA ROBOという人型ロボットを遠隔操作して重機を操作するシステムを開発している。
〇宇宙ロボットの研究
大手ゼネコンで、宇宙ロボット等の研究を手伝ったことがある。
月の地下資源開発のロボット、宇宙基地開発ロボット、月で発電した太陽光エネルギーを地球に伝送するシステムを開発するロボット、砂漠に貯水池を建設するロボット、海上都市を建設するロボットなどである。
建設ロボットと宇宙ロボットは、キネマティック(運動学)は異なるが、共通する部分もある。
宇宙で移動する乗り物には、小さな空間に、操縦室の他、仕事、食事、睡眠、入浴など生活に必要な多機能な設備が収納されている。このコンセプトは、在宅勤務の住空間設計に応用できる。
〇プレハブ住宅建設について
家を建てる人は、人と同じではない自分好みの家を欲しがる。そのため、工場で製造する建材に柔軟性を持たせて作る必要がある。そのためには、建材の製造ロボットが有効である。また、プレハブ建材を現場で組み立てるスピードを高めるには、建材の接合部分の設計が重要である。
〇被災地の緊急居住設備とロボット
災害発生後の簡易型居住設備として、電気、水、通信設備が予め組み込まれたコンテナを組み合わせて居住空間を作る方法が開発された。何の供給がなくても1ケ月間居住できる。解体後にあたって、ゴミを輩出しない環境にやさしい簡易型居住設備である。このコンテナは、陸路、空路、海路のそれぞれの運搬用のロボットで運ばれる。各コンテナを組み合わせることで必要性に応じた居住空間を形成できる。
〇完全無人のロボット工場
岐阜県美濃加茂市のヤマザキマザック株式会社は、地下工場で人が介在しない完全自動の工場を1970年代に稼働していた。
〇工場での建材製造と現場作業の関係
世界各国の住宅建設の手法を調べてきた。アメリカのトレーラーハウスは工場での建材製造に時間がかかるが、現場での組み立ては短時間で済む。ヨーロッパのレンガ作りの住居は、レンガは短時間で製造されるが、現場での建設作業に時間がかかる。工場と現場作業の時間が中間なのは、日本のプレハブ住宅である。住宅建設における柔軟性については、トレーラーハウスは規模が小さいが柔軟性に欠ける、ヨーロッパのレンガ作りの家は規模が大きいが柔軟性はある。日本のプレハブ住宅は、中規模で柔軟性がある。積水ハウスの住宅は、85%がプレハブ工法で建設され4時間で家を建てることが可能である。
〇プレハブ工法の研究
プレハブ工法を参考に、エアコンや太陽光発電設備等が予め設置されたプレハブ建材を工場で製造し、それを現場で、短時間で組み立てる方法を研究した。工場の自動化と現場作業の自動化の両方を実現する必要がある。
ドイツは、住宅建設費用が高いので、8万ユーロで建設できる低価格の住宅建設を提案した。コスト・ダウンするには、建材製造と現地組み立てを短時間で行う必要がある。プレハブ建材を8日で製造し、ロボットを使って8時間で組み立てた。
アメリカ人の設計者が企画した壁が歪曲したユニークな建物もロボットで建設した。コンクリートの壁の中に鉄筋を埋め込んで、パネル製造を行って、現場で組み立てた。
〇シンガポールの住宅建設
シンガポールは80%が公営住宅で、建設コストを下げたいと考えていたので、ロボットを使った住宅建設を行った。特に、住宅建設では、多くの外国労働者に依存しており、治安維持のために2030年までに30万人の削減を考えていた。
〇モジュラー・ロボット
ドイツで初めて、各種モジュラーを付け替えることが可能な内装作業用ロボットを開発した。モジュールを変えることで、同じロボットが多様な作業を行うことが可能になる。
〇協働作業ロボット
積水ハウスが、天井貼り作業を2つのロボットが協働して行う協働作業ロボットが開発した。天井の貼り付け箇所を確認して指示し、釘を打ち付けるロボットと、指示された箇所にパネルを配置する二つのロボットが協働作業を行うものである。
〇EUの住宅のリフォーム・ロボット
EUの住宅の殆どは、古い住宅をリフォームしている。壁のリフォームでは、新しい壁を古い壁の外側に貼り付ける必要があるが、古い壁は劣化して形状が均一でないので、そのままではロボットが部品設置作業を行うことができない。そこで、3Dプリンターを使って、実物の形状に合わせた建材を現場で作って対応した。
〇外壁材設置用クモ型ロボット
外壁材の設置には、5人の作業員が関わり、事故も多い。そこで、ケーブルを使って、ビル外壁全体を縦横無尽にクモのように動くロボットを開発した。
〇香港、外壁塗装ロボット
香港で開発した外壁塗装ロボットでは、外壁に飛び出しているエアコンの設置棚部分の塗装に苦労した。
〇ビル建設用ロボット・ドック
ビル建設用の20台のロボットを船のドックのような空間に配置し、低層階から高層階へ順次ロボット・ドッグが自動的に建設していくシステムが開発された。事前にドッグ内のロボットを準備するのに6週間かかり、完成後に分解するのに3,4週間かかるが、建設スピードは速い。Robot Oriented Designの考え方で、建材の接合部分の設計に関与した。建設の自動化で、特に難しかったのは配管の設置である。一つ一つの配管の設置を行うのではなく、複数の配管をバンドル化した配管ユニットで設置した。
〇天井から先に組み立てる建築方法
日本のゼネコンが、天井から先に組み立てて積み上げていく建築方法を考え出した。スウェーデンは一年の内、半年が冬である。天井から先に建物を組み立てる方法は、天井の下で雪を避けて作業が出来るので、スウェーデンで取り入れられた。
〇建物解体ロボット
解体工事には、非常にコストがかかる。解体ロボットを使って解体工事を効率化することが有効である。
日本のゼネコンでは、ビル解体の技術が発展している。鹿島建設は、だるま落としのように、柱を切って下からビルを解体する方法を採用している。大成建設は、上の階から下に解体していく方法を開発した。通常、解体現場は煩雑で汚いが、非常に綺麗で清潔な現で、建設廃材の93%がリサイクル可能となっていた。
Q&A
〇ゼネコンの現場作業の自動化を過去に繰り返し行っているにも関わらず、未だ現場作業のロボット化投資を行っているのは何故か?
住宅メーカーでは、プレハブ工法でロボット化、自動化が進んでいるが、そのノウハウがゼネコンと共有化されていない。小松製作所の重機のロボット化や産業用ロボットの技術についてもゼネコンと共有化されていない。それぞれの業界のロボット技術がバラバラに存在している。業界横断的にロボット技術を共有化、統合化していく必要がある。
〇ビル外壁検査ロボットは、自動化されているのか?
ビルの外壁検査ロボットは、自動でハンマーを打って検査し、そのデータを記録するものである。そして、人はビル外壁検査ロボットが記録したデータを解析する。
〇建物の設備設置ロボットの可能性はどうか?
配管の組み立ては可能だが、電気ケーブルなどのワーヤー系は柔らかく、ロボット作業には適さず難しいと思う。
〇ワーヤーで動く外壁ロボットが扱える重さはどれくらいか?
800クログラムまで大丈夫だ。特にガラスが重い。外壁の設置作業では、外壁材の重心を計算する必要がある。もし、重心位置を間違うと外壁材が落下してしまう。重心をコントロールする技術が課題である。飛行機の自動操縦の技術を参考に課題解決を考えている。
〇災害現場で使用する重機ロボットは建設用の重機ロボットをそのまま転用可能か?
建設用重機ロボットと災害現場重機ロボットでは、作業精度や重量負荷が違う。建設用重機のロボットを災害現場で利用するためには調整する必要がある。そのため、調整可能なインターフェイスを用意する必要がある。自然災害用重機ロボットの開発には、建設業界とは異なる業界の多様な企業が関わって開発する必要がある。
重機ロボットの遠隔操作については、通常の建設作業の遠隔操作で可能である。5Gなど通信技術の発達により、遠隔操作の範囲も今後拡大されていく。重機の遠隔操作については、パイロットのフライト・シニュレーターのような訓練設備が必要となっていく。
以上