2021年4月9日設立総会

「ワークロイドの社会実装成功に向けて」

~デンマークにおける実証実験の経験を日本の開発に活かす~

幹事 中島健祐

〇デンマークで世界的に成長したロボット・クラスター“Odense Robotics”の背景

オーデンセ市はデンマークの中央であるフュン島に位置している。デンマークでは3番目に大きな市でありアンデルセンの生家がある場所として知られている。人口は20万人でほぼ鎌倉市と同じ規模の自治体である。このオーデンセ市で世界的なロボットのクラスターが発展した。バイキングの歴史があるデンマークでは造船業が栄えていた。しかし日本と同様、韓国や中国の追い上げで造船業は衰退し、行政として地域を活性化させる新しい産業の創出を模索していた。そこで注目したのがロボットであった。オーデンセでは南デンマーク大学と連携して、造船ドッグで船の整備にロボットを活用することを研究していた。その経験を活かしてロボットでオーデンセを成長させようと考えた。2008年頃からロボットの産業化を図るために、日本から学ぼうと毎年自治体やロボットクラスターの幹部が来日していた。当初は日本のロボット技術やビジネスモデルなどを学ぶことが主で、なかなかロボットクラスターを成長させることは出来なかった。しかし、次第に体制も整備され日本に加え、アメリカや韓国、中国に対してプロモーション活動を展開することで認知度も向上していった。そして南デンマーク大学発ベンチャーである協働ロボット、ユニバーサルロボットの成功により現在では欧州のみならず世界的に主要なロボットクラスターの一つとして位置づけられるまでになった。

(注)Odense Roboticsとは、デンマーク、オーデンセ市より発足した地方自治体組織。主な活動目的は、次世代のロボティクス産業を担う人材を輩出すること。活動資金は自治体及び政府からの支援による。
https://www.odenserobotics.dk

〇Odense Roboticsの成功要因

日本より遥かに小さなデンマーク、しかも自動車産業はなく、産業用ロボットも発展していない北欧でなぜロボットクラスターが発展したのであろうか?詳細については機会があれば改めて説明するが、大きな要因として以下が挙げられる。

<オーデンセ市の成功要因>

  1. ロボット技術で社会課題を解決することに加え、開発も含めてイノベーションの要素を加えた
  2. 市場ニーズに合致した製品を1年半から2年でハードウェアを中心に迅速に開発した
  3. 出口戦略としてのビジネスモデルを初期段階から考慮していた
  4. ロボットビジネスを理解するCTOが存在した
  5. ロボット技術を理解できるCEOが存在しオーデンセに集結した
  6. 地域全体で資金調達も含めたエコシステムが形成された

〇オーデンセ市から生まれた世界的な協働ロボット

Universal Robots社 協働ロボット世界最大手

https://www.universal-robots.com/ja/%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%AD%E3%83%9C%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/

Mobile Industrial Robots社 自律走行型搬送ロッボト

https://www.mobile-industrial-robots.com/ja/solutions/robots/

〇Odense Roboticsの強み

ロボットの利活用による自動化を包括的な視点から捉えて開発していること。特に協働ロボットの開発では、ロボット企業は大学、自治体に加えユーザーである中小企業も加えたオープンイノベーションで効率的かつ多面的な開発を推進している。また、デザイン大国としてのノウハウも積極的に投入されており、ロボットと人間のインタフェースに人間工学、心理学、文化人類学の視点をも組み入れた取り組みを強化している。また大企業だけでなく、中小企業、スタートアップのエコシステムが有効に機能している点も特徴である。

〇本会で今後検討したい課題

本会で対象とする領域は、2030年までに工場内から工場外の環境で作業するロボット開発の支援を行いたい。また今後、台湾、中国、インドなどが本領域を強化することを鑑み、日本国として先行者利益を確保しながら世界的に業界を主導することが出来る体系も構築して行きたいと考えている。具体的には以下の領域に注力することを検討し協議している。

  1. 業種別ワークロイド・ソリューションの開発(匠の技×自動化)
  2. ワークロイド・ビジネスモデルの開発(50年単位の持続的なビジネスモデル開発)
  3. ワークロイドの国際標準化対応
  4. 知財管理(オープン&クローズ戦略)
  5. ロボットデザイン体系の確立:人間の行動原理や心理を考慮した人間とロボットが調和したデザイン体系の実現
  6. 欧州を中心に急速に議論が活発化しているロボット倫理、AI倫理体系の整備
  7. 国際連携によるワークロイドのブランディングと投資を呼び込むプロモーション活動

 

デンマークは10年でロボット・クラスターを成功させた。本協会では、これらのことを極力短期間で達成させたいと考えている。