ワークロイド研究会「ワークロイドとは」~ロボット開発の体験談をふまえて~
ワークロイドの提唱者、高西淳夫先生からワークロイド構想に至るこれまでの経緯を語って頂き、高西淳夫先生とロボット開発を行った経験のある株式会社テムザック代表取締役議長高本陽一氏、日本のロボット企業の北欧における実証実験、投資支援を行った経験を持つ中島健祐氏とともに、ロボット開発の体験談を語って頂きます。

こちからセミナーの録画をご覧ください。


人の歩行を正確に再現した二足歩行ロボット「KIYOMORI」

JIS規格に新しいカテゴリーを生み出したPersonal Mobility「ロデム」

患者シミュレーションロボット「ペディアロイド」

<セミナーの要旨>

1. 高西先生のヒューマノイド研究の背景
〇中小企業へのロボットの導入が課題
日本の産業用ロボットの出荷台数は堅調だが、今後は中小企業への導入が課題である。
〇早稲田大学でのヒューマノイド研究
人と同じ二足歩行を再現したことで歩行支援機器の事前安全確認用ロボットとして利用された。
☑早稲田大学故加藤一郎先生は、ヒューマノイド研究では世界最長の功績がある。
☑通常の二足歩行ロボットは膝を曲げて歩行するが、早稲田大学は人の骨盤の動きを再現することで人と同じように膝を伸ばして歩行することが可能になった。
多様な人の歩行を再現できるので、二足歩行ロボットを歩行支援機の安全性確認に利用された。
高齢者用の歩行支援歩行車では、腰を落として膝が曲った状態で使用する場合や体重を前に掛けて膝を伸ばして利用する場合など、様々な利用方法を試して、高齢者が転倒して怪我を負うことがないことを確認した。
歩行障碍者の歩行支援機では、障碍者それぞれの歩行分析データに基づいて二足歩行ロボットが歩行を再現して、補装具の有効性を確認した。
顎関節リハビリロボットの安全性確認のために制作した咀嚼ロボットが患者シミュレーターに発展していった。
☑咀嚼ロボット
日本には、顎関節症の患者が最低で2百万人いると推定されている。山梨医大と共同で、顎関節リハビリロボットを開発した。
山梨医科大学で顎関節リハビリロボットを医師が遠隔操作して、早稲田大学の患者のリハビリ訓練を行った。15年間顎を動かすことが出来なかった患者が、1時間のリハビリ訓練で顎を動かくことができるようになった。
この顎関節リハビリロボットの開発でも、人の顎の筋肉の動きを再現した患者シミュレーターの咀嚼ロボットを開発して安全性の事前確認を行った。咀嚼ロボットを患者シミュレータとして利用することで、仮想的な患者として様々なデータを取ることが可能となる。咀嚼ロボットの応用分野として、医療器具開発での安全性確認や新治療方法の開発、治療機の有効性の確認、顎関節リハビリロボットの操作トレーニングなどが考えられる。
〇テムザックと高西研究室との共同開発プロジェクト
二足歩行ロボットでは、新潟自然科学館向けに「新歩(シンポ)」、福岡県の宗像大社でのロボット安全祈願向けに「キヨモリ」(宗像大社)を開発した。
二足歩行ロボット以外では、二足歩行の技術を使って段差、階段に対応できる二足歩行車椅子WL(Waseda Leg)を開発した。二足歩行ロボットは既存の躯体を前提に設計されるが、WLでは様々な人が乗って操作するのでそれをどのように制御するのかが課題であった。WLの自重はバッテリーを入れて65キロで、最大80キロの人を乗せることに成功した。様々な搭乗者に対するシミュレーションで、その時々の駆動配置を予測し、その結果としての最適配置とのずれを学習して最適値のみを受け継いで行く、まるで遺伝子が進化するような計算方法でメカ設計を行った。この研究は、人の重労働の代替を行うワークロイドの開発に応用できる。
二足歩行技術以外でも、歯科医師のトレーニング用患者シミュレーションロボットを昭和大学とともに、テムザックで開発した。この歯科医師トレーニング用患者シミュレーションロボットは、「デンタロイド」としてテムザックから販売された。音声認識で患者と対話したり、治療中の拒絶反応を再現したりした。特に人の患者を扱っているという臨場感をだすために重要だったのが、ロボットの外観をより人間に近づけるためのロボットの皮膚であった。この技術に貢献したのが、オリエント工業の「ラブドール」の技術である。

2.ワークロイド開発について
中島氏 Q:ワークロイドを実現するためにどのような活動を主体的に行えばよいのか?
A:高西先生
これまでの経験で言えるのは、ユーザー側とのコミュニケーションが重要である。アカデミアは、理論や計算が基本だが、テムザックのような民間のロボット開発企業に工業的な有用性、市場性を検証してもらったことは非常に有用であった。
ロボット開発において法規の整備が重要である。テムザックとの共同開発の中で、道路交通法の問題に直面した。
A:高本氏
テムザック3号を使って路上でソフトクリームを売っていたら警察からクレームがあった。しかし、道路交通法上は、ロボットが対象となっていないことが分かった。そこで、ロボットによって人が集まる往来妨害罪として規制がかかった。当時、麻生福岡県知事に相談したところ、ロボット特区の認定を受け、ロボットが歩ける環境になった。
A:高西先生
ワークロイドが代替する人の労働の多くは力仕事である。APIを使って既存のモーターなどを組み合わせて作ったらどうかという話もあるが、それでは減速機がすぐに壊れたり、精度が確保できないといった問題がある。既存のモーターは、出せる力に比べて重量が重くなってしまい、パワー重量比、トルク重量比が低くなってしまう。人の労働に匹敵するパワーや運動性能を出すアクチュエーターについては独自に開発し、コンポーネント化、ユニット化する必要がある。
中島氏 Q:ロボットを使ったことのないユーザーとのコミュニケーションはどのように行えば良いのか?
A:高西先生
最初の段階では、話の行き違いが良くある。根気強く、コミュニケーションを取ることが重要である。相談に来られた方に、開発したロボットをいくつか紹介している内に、“この方法だったら使えるかもしれない”と閃かれる一瞬がある。暗中模索の状態で相談に来られるので、アカデミア側からいろいろ情報発信して、相手に引っかかるものを見つけ、ロボット開発にかかわる機会を見つけるのが重要だと感じている。
中島氏 Q:ワークロイドを開発、量産化のための課題は?
A:高本氏
後ろから乗り込むパーソナルビークル「ロデム」を開発して、量産化に入る。しかし、その過程では、通常の電動車いすとは形状が異なり、JIS規格の中に該当するカテゴリーがなく、量産化の壁となった。そこで、NEDOと経産省とともに、新たな“後乗り車いす”というJIS規格を作ることになった。新しいロボットを作るには、新しいルールを作る必要がある。既存のルールの中で、新しいロボットを作ることは期待できない。「ロデム」については、メーカーである我々が働きかけて新しいルールを作ったが、ユーザーの会のような団体があれば、そこが新しいロボットに対応したルール作りの活動やその後押しを行うことがきるのではないか。
中島氏Q:ロボットによって労働を代替すべき作業プロセス、業界について何かイメージはあるか?
A:高本氏
使いやすく、壊れにくいものが要望として多い。ロボットによって職が失われるという認識はなく、職場から人が消えている。業種問わず、人の代替としてのロボットは必要とされていると思う。
A高西先生
後片付けや絡んだ紐を解くとかの作業は、子供でもできるが、ロボットで行おうとすると大変な開発になってしまう。ヒューマノイドのロボットを見せると、これくらいの事しかできないのかとよく言われることがある。人は意識することなく動作を行っているので、それを機械に置き換える大変さが分からない。ヒューマノイドのロボット開発は、人の動きを理解することでもある。人は道具を使うことで作業を効率化している。ロボットでも道具を使うという発想があると良い。ロボット開発を効率化し、コストを抑えるという意味では、完全に動作するロボットを開発するより、道具を使えるロボットを開発する方が良いかもしれない。そのような発想でロボット開発を行うには、ユーザー側に立つ団体が、ロボット開発を主導していくことが重要ではないか。
A:高本氏
メーカー側の思い込みでロボットを作るよりは、ユーザー側が主導して作った方が良いロボットが開発できる。ユーザー側が必要とする自動化の部分を探って開発することが重要である。
中島氏 Q:ユーザーからの依頼で、ロボット開発をしやすい又はしにくいことはあるか?
A:高本氏
漠然とあれもこれもロボットで行いたいという依頼が一番困る。ユーザー側で、一番のニーズを決めてもらう必要がある。ユーザーによっては、一台のロボットで全ての作業をこなせるのではないかと思っている人もいる。しかし、現実では複数のロボットが分業して一つの作業を行うというやり方になる。ユーザー側に、そのあたりの理解が欲しい。
また、ロボット開発の計画を立てるために、開発予算と販売した場合の事業計画を教えて欲しい。
同じ業界の複数の企業から発注を受ける場合がある。その場合、各社、個別に秘密保持契約を結んで開発するので、同じようなロボットを別々に作るという結果になる。同じ業界で同じような用途で使うロボットについては、各社がまとめて発注できるような仕組みがあれば効率的な開発になる。
中島氏 Q:ワークロイドの安全性はどのように考えれば良いのか?
A:高西先生
日本人は、安全性に対して非常に敏感である。完璧性は、日本人の長所ではあるが、交通事故はゼロにはできない。狂牛病のとき、牛肉の輸出が規制されて倒産した業者が多く発生した。牛の狂牛病の発生数に対して、人に感染して死亡したヤコブ病の数は少なく、規制が過剰であったのではないかと思う。リスクに過剰に反応して、ゼロか100かで捉えるのは良くいないと思う。
ロボットにドライブレコーダーのようなものをつけて、データを改ざんできないようし、事故の発生原因を検証できるような仕組みが必要だ。重機の操縦では業界で教育してライセンスを発行している。ロボットも同様に教育を行って安全性を確保できる仕組みが必要だ。ロボットに関する保険制度も重要だと思う。これら、ロボット操作のデータの記録、教育制度、保険制度の3つが重要であり、国際的にも取り入れていく必要があると思う。
A:高本氏
テムザックで開発した援竜という災害救助ロボットは、自社で講習してライセンスを発行している。援竜は、両腕で1トンの物を持ち上げることができるので、操作による危険性を事前に認識してもらう必要がある。
アメリカでは、新しく開発された機器については、政府がリスクを需要した上で、試験的に使用する制度があるそうだ。新しいことに取り組むためには、先行して試験的利用する仕組みを政府で作くる必要もあるのではないか。

3.視聴者からの質問
Q:簡単で使いやすいを実現するにはユーザーとのやり取りを何度も繰り返す必要があると思うがコストがかかってしまう。そのプロセスを効率化する何か良い方法はなか?
A:高西先生
ロボットのことが分からない会社については、その会社から早稲田大学に人を派遣してもらって、ロボットのことを教えると喜ばれた。
A:高本氏
最初のやり取りは手を抜かずにしっかりやることが重要だと思う。お互いの認識のズレがないように、手間がかかっても現場に何度も足を運ぶことをした方がよい。
A:中島氏
北欧では、ユーザー・ドリブン・イノベーションというアプローチがある。商品開発の要件定義の前の段階からユーザーを入れて意見を聞きながら開発を行う。ユーザーからすれば、自分の意見が反映された商品が世の中に出るという期待感から真剣に協力してくれる。ワークロイドの開発でも、ユーザーとのすり合わせのプロセスを取り入れることが有効ではないか。
Q:FAロボット・システム・インテグレーターとのすみ分けは、どのようになっているか?
A:高本氏
FAロボット・システム・インテグレーターは、メーカー側の立場の会なので、ユーザー側の立場に立った会とは相互補完関係になって協力できるのではないか。
Q::ロボットの作業を実現するためには、作業そのものを変える必要があるのではないか?
A:高本氏
ちぇっとした作業方法の変更で、ロボット導入が効果的になることがある。ユーザーにその効果を理解してもらいながら作業法を変えて行く必要がある。お互い話し合う必要がある。
Q:暗黙知をロボットで代替する良い方法はないか?
A:高西先生
現在は、3Dプリンターやシミュレーターなどが自由に使えるので、それを使って自分が欲しいロボットの試作を作ることで、それが暗黙知を形にするきっかけにならないかと思う。ユーザー企業の中に、そんな試作を作れる人を増やしていくのはどうか。また、暗黙知をロボットに導入するための言語化の作業には、やはり教育が必要になると思う。特にロボットの操作方法などの言語化は、まだロボットの黎明期なので、その専門家が必要になり、海外では企業内にそのような専門家を雇っている。今後、ロボットの言語化の専門的なサービスを提供する会社も現れるかもしれない。
Q:労働者の代替としてのワークロイドの開発には人間工学や心理学なども関係してくる。どのようにしてこのような分野を取り入れて行けば良いのか?
A:高西先生
ヨーロッパの大学ではロボット工学に哲学者が関与している。日本には、そのような大学はなく、日本全体の問題でもある。
A:高本氏
ロボット同士が通信をし合って作業しているところに人が入ってきたときに、ロボットがどのような行動を取ればよいのかについては、哲学者のような人が入って考える必要がある。
Q:ロボットを考えるにあたって、自動車が普及したプロセスを参考にすると役に立つのではないか?
A:高本先生
ロボット操作のデータの記録、教育制度、保険制度の3つが重要だと説明したが、これには最初、航空業界を参考にした。パイロットは訓練を受け、フライトレコーダーで操縦内容を記録する。航空機には交通事故より事故は少ないが保険をかけている。自動車も同様だと思う。
Q:データシートを短期間で収集する良いアイデアはないか?
A:中島氏
デンマークでは、農業IOTが短期間で一気に広がっている。個別の農家は、農地にセンサーを置き、そのデータを組合に送り、組合は全てのデータを集計して、各農家にフィードバックする。各農家は、全国の農家のデータを見ることができ、比較検証して農作業にデータを活かす。協会などが、会員をコーディネートしてデータ収集すれば、一気にデータを集めることが可能になるかもしれない。ワークロイドでデータの共有化を図るのも良いのではないか。
A:高西先生
ワークロイドが危険な動作を行ったり、または、有効な動作を行った場合のデータを共有化して、他のワークロイドにも相互にフィードバックできる仕組みができれば有効ではないか。